ごあいさつ
昨今の新建材を多用する大量生産型の住宅や、スタイル重視型住宅。適正価格が不鮮明な建築費、大工をはじめとする見知らぬ職方達の技量。本当に健康で安心して暮らせる家が完成して住めるのか、マスコミで報道されているように、建設業界に対してある種の疑念をお持ちの方が多いのではないかと思います。そして実際家を建てようと計画しても、建築物のスペックや予算の想像はついても、建設会社か工務店、あるいは設計事務所のうち、一体どこへ依頼したら良いものか、判断にお困りではないでしょうか。一般論として3者それぞれの利点や悪い点を指摘しているサイトもありますが、残念ながらそれが正当に評価できるのは、入居後の皆様だけなのです。
自動車の買い替えとは違い、高額な契約と代金支払いが発生し、仕事で得る収入の多くを費やされるのが持ち家ではありますが、家族や将来を思えばその投資も決して間違いではないはずです。問題は家の性能や品質に、投資した金額相当の価値があるのか、ということではないでしょうか。
自社の施工監理体制や充実した標準仕様、果ては営業や設計の優位性を語り、アフターフォロー万全の200年住宅です、という風な営業展開をしている建設会社が、何となく健全な印象を受けます。しかし、この200年住宅というネーミングは、200年持続する家、という文字通りの意味合いではないことをご存知でしょうか。積層材の梁を外部にさらしている200年住宅があるくらいです。ようやく横浜開港150周年を迎えましたが、あと200年どの建設業者が残っているのか考える事は、余り有意義ではなさそうです。たとえ、関わったつくり手が皆消えて無くなっても、家がその後に続く家族と共に生かされているのなら、私はそれでいいと思うのです。そういう普通な家をつくればいいことです。
ひとそれぞれ生活が違うように、家に対しても皆求める要素が異なります。しかし次世代まで永住できる家はと考えると構造や素材に拘らざるを得ません。無垢自然素材特有の恩恵をうけ、いつまでも健康で快適な暮らしがしたい、補強金物に頼るだけでなく、木組みで建物自体を粘り強くしたい。大前提で家とは、家族の生命、財産を守るものである、ということを忘れてはいませんか。
考えてみれば現在見直されている自然素材の家造りは、本来工務店が最も得意とする分野なのです。親方から道具の使い方や、材木の目利きの仕方、木組みのイロハをしっかり受け継いだ大工なら、新建材を扱うより多少手間がかかっても、無垢の材木を扱うほうが、やりがいがあると考えているものです。無垢素材特有のくるいが出ることもありますが、それに増しての触感の良さや調湿性能、経年美にこそ価値があることを経験から肌で知っているのです。
もちろん新建材や化学製品を全否定するものではありません。ご希望と予算に基づき、適材適所で納める判断も場合によっては必要です。同じプランでも、仕様により全体工事金額が大幅に変わることも又事実です。当社の仕事を信頼されて、建物にかけられるご予算を率直にお話しくだされば、最適な仕様や工法を考えて積算致します。
知識と経験と技術、そしてこれらを駆使した想像力でその都度提案し、納得の上施工させていただきますが、素材の組み合わせによっては思いのほか相乗効果が得られることもあり、住宅建設はその奥深さに考えさせられること、しきりです。
少人数の専門家が、情熱と誇りと想像力をもって一棟づつ真摯に向き合い、クオリティの高い建物を、責任施工する家づくりは如何でしょうか。工務店を礎とする小さな組織だからこそ、余分な経費をかけずに施工監理できるメリットがあることを想像してください。何かしらお住まいの計画がございましたら、何なりとお問い合わせください。より良い家造りの為でしたら、貴方の力になれることをお約束致します。
代表取締役 鈴木幸雄
これから家づくりされる方へ
1 集成材や積層材の柱、梁でも曲がるという事実
無垢構造材は乾燥が不十分であると、その木質によっては曲がりや割れ、そりが発生する為、完成後のクレーム回避や価格的な面からも集成材のほうを採用してきた経緯がありました。しかも強度的にもこちらが勝っているというフレーズ付きです。一時その要因だけで耐水性、防虫性の低いホワイトウッド系の集成材を、安価なこともあり多用してきました。しかし、入居して2~3年で、ドア枠の縦材がゆるく湾曲しだしたりする事例が出てきました。集成材とは工場で作られた時が100%の強度ですが、時間の経過と共に弱体化し、結露などの要因があればさらに加速するものです。これに対し、無垢材は初期段階では強度は増す傾向にあり、やがて安定します。良く手入れ管理された産地での材木は、乾燥技術もあいまって集成材以上の強度を有するものもあり、製材所によっては強度計測値と含水率を刻印表示して出荷しているところもあるのです。
絶対くるわない家は造れませんが、それを最小限にするには、実際に見て触って木のくせを読み取り、適材適所で納める気構えが造る側にあるかないかだと思うのです。
2 ただの勾配天井や吹き抜け大部屋は、反響音でうるさいという事実
仕事上、いろいろな家を見てきましたが、確かに空間的には見栄えもして良いのですが、スリッパの音やテレビの音声、家族の話し声、椅子を引いた時に発する生活音が、むしろ普通の天井高の6帖のほうがマシという事が多々あります。空気の流れや日照を取り入れるには良い造形なのですが、私はイライラして落ち着かず頭痛がしてくるのです。これには床、壁、天井材そのものや、裏の部分に吸音性が機能していなければなりません。小社では断熱材のセルローズファイバーを家全体の他、2階床下にも充填し音対策をしております。
3 断熱材の性能が居住性を左右するという事実
仕上がってからは見ることが難しいですが、実は断熱工事は家の居住性能を決める要因の一つなのです。しかし全ての断熱材や工法には一長一短があり、何を採用するかは慎重でなければなりません。
小社では新聞古紙を原料としたセルローズファイバーを屋根なり、床下、壁内に充填する施工を採用しています。防カビ、防虫、吸音、防露、撥水防水、耐火、安全、省エネルギーという性能があり、水蒸気が自由に透過できる調湿機能を有しており、非常に快適な生活空間が体感できるのです。無論、床や壁、天井材との相互作用もあっての事なので、コスト配分も含め、計画段階での採用を考えなくてはなりません。確かな効果を得る為には、断熱材を隙間なく充填し、空気が動かないようにすることで、これには熟練専門業者による施工が必須となります。
4 住宅瑕疵担保履行法のこと
消費者を欠陥住宅や瑕疵から守る為、施工業者にそれ相応の資金を負担させることを法制化し、平成21年10月1日以降に引き渡される物件から、供託か保険加入が全ての建設業者に義務付けられました。違反した場合は業者への罰則規定がかかります。(1年以下の懲役、100万円以下の罰金、業務停止処分)
しかし全ての欠陥、瑕疵を保証するものではなく、以下の事案については保険対象外です。
Ⅰ 「構造上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」以外での瑕疵
Ⅱ 故意、恣意的な瑕疵
要するに、建物自体が壊れたとか、雨漏りがした場合だけなのです。他にも瑕疵と認めさせる労力、保険料は巡り巡って施主負担となる事実。国は200年住宅や長期優良住宅を促進させながら、それに対したった10年間しかない保証期間の設定や保険料金等の仕組みとは、どんなものでしょうか。不敬かもしれませんが、たった10年以内で壊れたり、雨漏りがする家を造るのも、心があるのなら結構難しいと思うのです。
従来の住宅性能保証機構も同じようなことで、小社のお客様は最終的には施工を信頼されて、あえて保険に加入されなかった方がいらっしゃしました。我々には良質な家を造る自信と誇りがあります。基本はそもそも顧客と施工者との相互信頼で、お客様を消費者と呼ぶ事自体が間違いだと思うのです。お客様の大半が紹介や現場見学会に来られた方であるのなら、自ずとアフターメンテナンスも万全となるのです。保険加入が強制されるのは、小社にとってもお客様にとっても以上の理由で余り深い意味が見出せません。検査合格証だけで家への安心は得られないと思うのですが、法令順守しなくてはならない状況なのです。補足しますが、地盤調査~改良工事、基礎配筋、耐震補強金物を含む建築基準法規約照合との一連の確認をすることは常識であり、生コンや基礎改良杭であれば、配合計画書や強度試験報告書の提示を求めております。今のところ過去の検査で補正の指摘を受けたこともなく、その合格で満足している訳でもありません。
5 満足できる家を建てるには
建設会社や工務店は数多くあり、それぞれ得意にしている分野があることでしょう。まず、施工現場を見て、その後、住んでいる人の飾りの無い生の声を聞かれることをお勧めします。しかし最終的に施工を任せて頂ける関係は婚姻にも似ており、何か生理的に相性が良くないと感じたら、まず契約には至りません。
塩化ビニールや新建材ばかりでこしらえ、しかもメンテナンスフリーが希望というのでしたら、そんな家は造れませんと正直に答えます。間取りや空間の連続性、可変性、色彩・照明計画、情報設備等の好みは分かれますが、気持ちの良い肌触りとか、健康に暮らせそうな家が欲しいという点では、皆一様にお望みではないでしょうか。その為の素材の選定から予算配分、建築士を交えての設計打ち合わせ、大工を始め関わる職方の技量、ありとあらゆる一連の作業が家の性能を決めるのです。
それから将来の家族構成の変動にも、最小限の壁の取壊しや増設で対応できるような柔軟性に富んだ家が、実際生活し始めると欲しくなるものです。
6 楽観論
われわれ注文住宅業者は営業トークとして、例えば住人十色とか言ってひとそれぞれの家づくりを見出し、そこに他社との相違を得ようとします。単純に商いですから、これで生計をたてている以上、ある種正論です。しかし他社とはここが違ってこちらが良いです、と皆言うということは、裏を返せば家づくりに王道はないという事です。ですから、これでなければいけないのだ、という縛りから一度離れてみることをお勧めします。
散々私の考える家とはこうあるべきと説明しましたが、お住まいになるのは皆様なのです。業者の言うことは皆均等同列に置き、計画から施工、その後の家守りまでトータルに考えた評価で、例えばお見合いで生涯の伴侶を選ぶ感覚も結構大事だと思います。急に家を建てるかたはそういないでしょうから、最低半年から1年は業者の比較から得た、お客様独自の建てたい家を学習してください。現場を覗くもよし、ネットで調べるもよし、住宅建築雑誌を読むもよし、どこかで建てた友達の家へ行って話しを聞くもよし、自分で間取りを書いてみるもよし、手段はいくらでもあります。どうか楽しみながらお客様独自の考えをまとめてください。そうしていくつかの業者の対応や施工なりを改めて評価してみてください。何か良いものが想像できたなら、それもひとつの決め手になることでしょう。
7 改装工事現場からのフィードバック
先に集成材や積層材のことを書きましたが、築20年以上経過した建物の改装工事から、良きも悪しくも学ぶべきものがたくさんあります。シロアリの被害や水廻りの腐食は、一部壊したり床下に潜らなければ解らないことです。構造材や下地材の劣化や腐食はそれこそ住人十色で、見習うべき施工や駄目な施工は一目瞭然です。
木造3階建てで2階、3階にシート防水にモルタル仕上げの跳ね出しベランダがある家の床下に潜り、土台に柱が6mmくらいめり込んでいるのを見た事もあります。ベランダはモルタルのヒビだけでなく、水が溜まっていました。建物の水平垂直は、地盤不同沈下だけの要因ではありません。換気の悪い小屋裏の、屋根下地合板の著しい劣化も見ました。タイル仕上げの浴室で、べた基礎の立上り継目から水が滲みだしているのも見ました。屋根材や外装材の経年劣化の著しいものも見てきました。逆に、床下地も屋根下地材も当時のまま保たれている家も見てきました。
我々はこれらから謙虚に今の施工を鑑みねばならないと思うのです。100%完璧な施工と言いたいところですが、それに近い施工はできるはずです。
以前とあるリフォーム団体に加盟していたのですが、そこの幹部役員(リフォーム会社社長)の挨拶で、新築もリフォームも何でもやりますという業者は実は怪しい、と演説しているのを聞き、小社の趣旨との相違に我慢ならず退会したことがありました。私にはリフォームしか出来ないとか、新築しかやらないというところの方が、かえって物足りなさを感じてしまうのです。
総じて、過去の建物の改装工事や解体から得た実体験を無くして、200年住宅とか長期優良住宅を語るべからず、だと思うのです。
8 震動台建物公開実験 E-ディフェンス
2009年10/27に政府独立行政法人防災科学研究所 兵庫耐震工学研究センターというところで、木造3階建て住宅を震動台に2棟つくり、耐震基準の1.8倍(震度6強)の揺れを与えて建物への影響を調べるという公開実験がありました。一部報道でも紹介されましたが、ここでも取り上げます。画像向かって左の試験体は柱頭柱脚の接合部強度が不十分な建物で、右が国で薦めている長期優良住宅の認定基準である耐震等級2の建物です。
で、実験の結果はどうなったというと、その前にまず動画を見てください。
「倒壊実験」で検索すると設計事務所や建築関係の方々のウェブサイトがいっぱいでてきますので、詳しくはこちらで。当時コメンティターが苦笑いしていたTVがありましたが、笑いどころではないはずです。
小社でも施工することがある、柱を長ほぞ加工して込み栓で留める手刻み加工の家は、同じ試験ではどうなるのか、これはやってみなければ解りませんが、震災地で被害の少なかった家のDATAを国から公開して欲しいと思うのです。歴史は嘘のない実験室だと思うのです。プレハブ系や2×4、軽量鉄骨の家が在来木造よりも優れているという偏見に惑わされることなく、自信を持って在来木造住宅をつくりたい思いでいっぱいです。